「群衆に三輪車で突っ込んでいく少女とは」 ベトナムで私は考えた【西岡正樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「群衆に三輪車で突っ込んでいく少女とは」 ベトナムで私は考えた【西岡正樹】

 

 この光景は、ずっと私の脳裏から消えることはないでしょう。それ程に、日本ではけっして見ることのできない光景なのです。このような光景を見たら、「子どもの安全を蔑ろにしている親の怠慢にすぎない」などと、ある国では言われるかもしれません。そうかもしれませんが、ここではそのような意見は横に置いて、この少女自身の成長について考えてみたいと思います。

 日本の子どもたちが、この少女のように行動することはけっしてありません。日本社会の大人たちは、子どもが何をするにしても関わろうとするし、子どもが失敗しないように困らないように気を配っています。何事にも困ることのない、失敗することのない環境の中で育ってきた子どもたちは、「分からない」ということや「失敗する」ことを嫌います。それどころか、それらに対して恐れさえ感じているのです。このような子どもが多い日本では、この少女のような行動はあり得ないのです。

 したがって、日本では、子どもが就学する年齢に達する頃には、分からないことがあっても「分からない」と言えないし、「先が見えないこと」、「できそうにないこと」にチャレンジすることはありません。教室の中でも、子どもたちにとって、それは容易なことではありません。それが今の子どもたちの状況です。特に、いろいろな思いや考えを持っている人が集まる公の場(街中)では、それが顕著です。

 しかし、このホイアンの少女は4、5歳にしてすでに、自分がやりたいことに向かって行動できるメンタリティが育っているように思えました。私は2か月半をベトナムとカンボジアで過ごしましたが、やはり日本と同じように、少女の行動とベトナム社会の大人の行動が繋がっているように思えてなりません。

 「周りがどのような状況であっても自分のペースは崩さず行動し、もし何かあったらその時に考えればいい」私たちの感覚からすると、場当たり的であるともいえるでしょうが、ホイアンの少女や街中で見かける人々を見ていると、ベトナムで何よりも大切にされているものは、「自分の意志」なのです。行きたいと思うから行くし、やりたいと思うから行動しているにすぎない。そのシンプルな感情と思考が子どもたちの行動を促していると思うと、教師として少々羨ましくなります。

 カフェやレストランで大きな声で話をすることは、日本では禁忌すべき事です。しかし、ベトナムの人々にとって特別控えることではありません。(ベトナムに限らずカフェで大きな声をだして話す国の方が多いのでは)ベトナムの人々にとってお茶やコーヒーを飲みながら楽しく会話することは、生活になくてはならないものだからです。そして、それを全ての人が共有しています。  

 また同じ理由で、「原付バイクに4人乗って走る」こともベトナムの人たちにとって許容範囲なのです。きっとバイクの積載量や安全性などからルール的には許されていないのではないかと想像できますが、それはあくまでもルールであって自分の行動を規制するものではありません。周りに迷惑をかけていないし、「4人で行動したいし4人乗れるのだから乗る」ということだけの思いで行動しているのではないでしょうか。ベトナムの人々の行動を見て思うことは、我々を規制しているのはルールや規則ではなく、人々の習慣や慣習、つまり築かれた文化だということです。

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西岡正樹

にしおか まさき

小学校教師

1976年立教大学卒、1977年玉川大学通信教育過程修了。1977年より2001年3月まで24年間、茅ヶ崎市内の小学校に教諭として勤務。退職後、2001年から世界バイク旅を始める。現在まで、世界65カ国約16万km走破。また、2022年3月まで国内滞在時、臨時教員として茅ヶ崎市内公立小学校に勤務する。
「旅を終えるといつも感じることは、自分がいかに逞しくないか、ということ。そして、いかに日常が大切か、ということだ。旅は教師としての自分も成長させていることを、実践を通して感じている」。
著書に『世界は僕の教室』(ノベル倶楽部)がある。

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